徐 梓淳 / Xu Zichun

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1997  中国雲南省生まれ
2015  広西芸術学院 入学
2019  広西芸術学院美術研究科油画専攻第一研究室 卒業
2022.4 多摩美術大学大学院美術研究科油画専攻 入学
2022.8 東京芸術劇場 kenzan2022 入選
2023.7 神奈川県美術展 入選
2023.11 東京芸術劇場 kenzan2023 入選
2024.2 sompo 美術館 FACE2024 入選
2024.3 多摩美術大学大学院美術研究科油画専攻 卒業

涅槃の歌シリーズは「物質は宇宙から完全に消滅するのではなく、別の形で存在し続ける」という「物質不滅の法則」からインスピレーションを受けた。精神や意識でできている宇宙があるとしたら、精神宇宙もそのような法則で動いているのではないかと考えている。よって、思い出せない記憶は消えていないとも言える。さらに、私が考えているのは、もしすべての精神的、意識的な個体の脳の忘れられた記憶の一部が、完全に消え去るのではなく巨大な空間に向かっているとしたらそこにはすべての忘れられたものが積み重なり、集まっていることになるだろう。もはや単独では抽出できない「メッセージの塊」となる。すなわち、「忘れられた」部分は、別の次元で集まり、人の精神世界の形を黙々と作り上げる。

♮シリーズの♮は natural(ナチュラル)、自然の生まれつきということである。「natural」の語源は、ラテン語で出生、本来の性質を意味する「natura」である。西洋音楽の五線譜での[♮]の記号は、本位記号(ほんいき ごう)とも呼ばれ、西洋音楽の五線記譜法による楽譜に用いられる変化記号「♮」のこと。シャープやフラットの機能を解除する意味を持つ。この記号の意味は、私が「ナチュラル(natural)シリーズ」で表現したい内容と共鳴した。よって、私はこの音楽記号を絵画芸術と結びつけ、このシリーズのテーマとして使用することにした。
このシリーズの作品は、私の出身地である中国の雲南省の山々からの記憶を基にして制作されたものである。山は私にとって記憶の原点であり、自己の内面と外界との関係を探求するための出発点となった。美術教育を受けた中国では、伝統的な造形技法に焦点が当てられており、新しい表現方法に踏み込むことは不安であった。しかし、私は抽象的な風景作品を通じて、独自の絵画言語を見出した。作品の中には、山や水平線などの象徴が現れ、これらは私の過去や未来、そして現在の感情や思い出を反映している。また、私は音楽の記号である「♮」と絵画芸術を結びつけ、作品のテーマとして取り入れた。子供の頃の旅行体験が、作品の基盤を築く契機となった。夕陽の光が山のシルエットを浮かび上がらせる景色を見て、私は過去の時間が具現化されているような感覚に陥った。これらの体験は私が空間と時間に対する想像を深め、絵画作品に反映された。作品は私自身の存在と世界との関係を探求し、静寂の水平線を通じて宿命感や喜びを表現している。