Panta Rhei ー 記憶・認識・移ろう官界
四宮スズカ × 徐梓淳
かつて、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは、「万物は流転する」を意味する「パンタ・レイ」を唱えた。
古代ギリシアにおける哲学の展開は、すでに果敢な知への挑戦として広く捉えられているように、自然哲学から人間の内部への関心、さらに「認識」への具体的言説へ昇華していった。
本展では、異なるアプローチから、絵画的な物質への憧憬、世界の捉え方に関心を寄せ絵画作品として現前化する二人のアーティストを紹介する。
作品を通して、世界の在り方から翻って自己の中に深く潜る手続きを提示し、表出する画面上の問題だけに邁進することを忌避しつつ、絶えず「見ること・世界を知ること」の往来によって今を把握することを目指す。絵画の画面上に現れる「水平線」あるいはその制作プロセスから、移ろう日々の中に、流れゆく記憶や情報、意識を、絵画の中で繋ぎとめておくための実践である。
四宮は、自身の制作プロセスを次のように語る。『ドローイングや塩の作品は、世界の実態が「流れ」だと考えていることから始まっている』。そのような世界の成り立ちや物事の哲学的な側面を定義し、絵画上で、主体と客体の絶え間ない往還を示している。「流れ」というと、ある意味東洋主義的な価値観を思い出す一方で、絶え間なく変化する世界の在り方そのものが秩序を生み出すギリシャ哲学の言説を呼び起こす。絵画の画面に表出する叙情的な印象は、一方で世界をどのように見るのか、という四宮本人の思惟が反映されていることに注目いただきたい。
一方、『物質は宇宙から完全に消滅するのではなく、別の形で存在し続ける』と語る徐は、中国雲南省の出身の気鋭の画家だ。中国大陸の腹地に位置する山々に囲まれた内陸地域である中国雲南省。育った環境から影響を受けたという「♮」(ナチュラル)シリーズは、ほぼすべての絵に「水平線」が描かれ、山並みを彷彿とさせる画面には作家自身の記憶が反映され、無限の自然を切り取る作業となって作品化されている。また本展では、人間が生きる上での快楽や抑うつを生成する記憶をもとにした「涅槃の歌シリーズ」を展示し、忘却に付随する「意識に潜む経験の蓄積」を表出させている。
絵画作品として潜在的な意識や提示する気鋭のアーティストのそれぞれの現在地を、ぜひこの機会にご覧ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
四宮スズカ
【主な個展】
2021.11 「CC(closed circuit)」 (東京 Gallery 33 south)
2023.3 「うけい籠り」 (東京 美術紫水)
2023.8 「scow」 (東京 Hello bee、Gallery美の舎、Gallery KINGYO、谷中ギャラリーhaco)
2023.11 「洞(〇X∞・・・司)」 (東京 aL Bace)
【主な参加展示】
2022.3 ART FAIR TOKYO 2022
2022.8 三人展「≃直会」 (東京 Gallery2511)
2022.9 二人展「シ.エン」 (東京 Gallery美の舎)
2022.10 3331ART FAIR 2022
2023.9 ART Students STARS vol.2
【受賞歴】
2017 第41回全国高等学校総合文化祭 奨励賞
2018 第42回全国高等学校総合文化祭 最優秀賞
2022 gallery美の舎学生選抜展 グランプリ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
徐 梓淳(ジョ シジュン)
1997 年中国雲南省生まれ
2015 年広西芸術学院 入学
2019 年広西芸術学院美術研究科油画専攻第一研究室 卒業
2022 年4月多摩美術大学大学院美術研究科油画専攻 入学
2022 年8月東京芸術劇場 kenzan2022 入選
2023 年 7 月神奈川県美術展 入選
2023 年 11 月東京芸術劇場 kenzan2023 入選
2024 年 2 月 sompo 美術館 FACE2024 入選
2024 年3月多摩美術大学大学院美術研究科油画専攻 卒業